妻よりも長い時間を一緒に過ごす、夫の相棒は黒のビジネスバッグ

お風呂場から「ふーっ」と息を吐く音が聞こえてきました。夫の仕事はこの時期がピークなので、毎晩帰宅が遅いのです。軽い食事とビールの用意をしている時、リビングの片隅に置かれた夫のバッグが目につきました。この黒のビジネスバッグは、夫が社会人になる時に両親が用意してくれたものだそうです。特にブランド物ではないけれど、シンプルでしっかりした作りです。手提げにもなりますが、夫はショルダーで使うことが多いようです。そのせいか、一度ストラップがダメになって新しい物に交換しました。

このバッグ、計算してみると20年ほど使っている事になります。スーツやワイシャツ、靴は着替えても、バッグは毎日使います。毎日使って20年ってすごいです。私も物持ちはいい方だと思っていますが、自分の物で20年使っている物を思い出せません。雨の日も雪の日も、朝から晩まで、働く夫の傍らにはこのバッグがあるはずです。「私より長い時間、夫と一緒にいるのよね」と思ったら、なんだか愛おしく思えてきました。

夫は仕事のことはあまり話さず、私も特に聞く事はないのですが、いつも順調に進んできたわけではないと思います。仕事の事や人間関係などで悩む事もあるのだろうなと思います。もしかしたら、このバッグだけが夫の愚痴を聞いているのかもしれません。時には、このバッグと共に午前様になる事も有ります。学生時代の友人や職場の人と、お酒を飲みながら遅くまで何を話しているのでしょうね?バッグに聞いてみたい気もしますが、聞かない方が平和かもしれません。

夫が資格試験の勉強をしていた時期がありました。業務に必要な資格とはいっても、試験対策の勉強ををするのは帰宅後や休日です。当時から残業が多く、時間を作るのが大変そうでした。試験当日は、このバッグに受験票や筆記用具を入れて出かけていきました。「大人になっても試験は続くんだよね・・・」と笑っていても、緊張していたのだと思います。そんな時、私は見守ることしかできません。何度目かの試験でようやく合格の通知が届いた時は嬉しそうでした。

そういえば、初めて二人きりで食事をした時に夫がこのバッグを持っていたことを思い出しました。職場の同僚だった夫と私が人生のパートナーになる様子もずっと見守っていたんだなと思うと感慨深いです。新婚の頃、些細な事でケンカをしたことがあります。言い争いになった事も、いつの間にか仲直りしていた事もお見通しに違いありません。

娘が産まれる時は、予定より早く陣痛が来て、私は1人で病院に向かいました。職場から駆け付けた時も、夫はこのバッグを持っていたことでしょう。そんな娘も小学生になり、時には生意気な口をきく事があります。それでも夫は娘が可愛くて仕方がないようで、時々このバッグにお土産を入れて帰宅します。入っている物は、職場で頂いたお菓子だったり、コンビニに立ちよって選んだものだったり様々です。大げさなものではないけれど、娘にとっては魅力的なものなので、バッグが膨らんでいると目を輝かせます。

よく考えてみたら、本当に私達家族とずっと一緒に歩んできたバッグです。でも、正直なところ、かなり年季が入っています。社会に出てから定年までの時間を考えると、夫は、ちょうど折り返し点あたりです。この機会に新しいバッグを用意するのもいいかなと思います。でも、「まだ使えるからこれを使う」と言いそうな気もします。それも夫らしいなと思います。週末にでも夫に希望を聞いてみようと思います。もしまだこのバッグを使うのなら、「これからも夫をよろしくね」という気持ちで、丁寧にお手入れをしようと思います。

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